ベストチョイスシンドローム

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東野圭吾「殺人の門」を読みました

東野圭吾の小説は、高校生の息子が中学時代から何冊か買って読んでいて、私も「白銀ジャック」を読んだことがあります。ミステリー作家で展開の速さと意表をつくどんでん返しで読者を引き込むイメージで、「白銀ジャック」は、当にそのような本でした。東野圭吾は、書店でもいくつもの作品を見かけるので売れっ子作家なのだと思います。一方、昨今流行りのミステリーの作家としては、最後のどんでん返し勝負みたいな気がして、正直特別な作家という印象はありませんでした。ただ、経歴をみると大阪府立大学工学部電気工学科卒業後、日本電装株式会社(現デンソー)に就職したところが、理系の作家としてほかの作家と違う系統だなと思っていました。

新年度も少し過ぎようやく仕事も落ち着いてきて、休日や夜に少し時間ができたので、たまにミステリーでも読もうと思って息子の部屋をみると「殺人の門」がありました。少々厚めの小説でしたが、タイトルをみて殺人事件の犯人捜しのミステリーだと予想しました。時間つぶしには良いだろうと思い、読んでみることにしました。

正直、ありきたりのミステリーだと思い期待していませんでしたが、読み終えた感想は、これはなかなかの大作、力作だと思いました。ストーリーの詳細は控えますが、基本的に殺人などの事件が起こって、その犯人捜しを行うというストーリーではありません。主人公の小学校時代から大人までの家族、学校、就職、恋愛、結婚をその間の様々なできごとを含めて進んで行くストーリーです。それならば平凡な人生のストーリーかというとさにあらず、その様々なできごとというのが悉くトラブル・事件の続きなのです。しかも、そのトラブル・事件には、必ず小学校の同級生の倉持が絡んでいるのです。倉持に恨みや殺意を抱きつつも、絡みが偶然なのか意図的なのか、倉持が悪者なのか親友なのか、主人公にも理解できぬまま過ぎてゆきます。一応、最後にオチはあるのですが、何とも憂鬱で暗い展開が長く続きます。

太宰治人間失格」や三島由紀夫金閣寺」、芥川龍之介或る阿呆の一生」、梶井基次郎檸檬」、志賀直哉「剃刀」などが、暗い作品というと思い浮かひますが、「殺人の門」は、ある意味これらの作品以上に読んでいて絶望的な気持ちになりました。兎に角、主人公は倉持に隷属せざるを得ない状況から脱せず、選択肢がないのです。ただ、それでもストーリーが破綻無く展開していき、最後まで読み終えることができます。主人公の愚かさといえばそれまでですが、どんどん落ちぶれて行ってしまい、少し良くなると思えば、またトラブルに巻き込まれてしまう。主人公も倉持とは関わりたくないと思っているのですが、困っていると助けに来る倉持を拒否できない状態に置かれ、支配されているような関係になってしまいます。

二人の運命的な関係ということでは、なぜか渡辺淳一氏の直木賞作品「光と影」なんかが思い浮かびます。ストーリー内のトラブル・事件も昭和の時代に起こった社会的な事件をモチーフとしているような気がします。殺人、詐欺、借金、不倫、いじめ、自殺、離婚、噂など嫌なことが次々と生じてくるので絶望的な気持ちになる反面、世の中にこれだけ悪い人間はいるものだと理解するためには、教育的な観点からも一読することをお勧めします。