ベストチョイスシンドローム

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最高のエンターテイメント「小学校卒業式」

小学6年の長男の卒業式があった。仕事が佳境を迎え忙しいのだが、何とか午前中だけ休暇を取って卒業式に行った。正直、卒業式そのものには殆ど期待していなかった。運動会や学習発表会は、それなりに見所があり楽しめることもあるのだが(学習発表会「80日間世界一周」 - つまらない日記)、体育館で行われるような式は期待できなかった。というのは、これまで参観日に行った時に授業とともに全校集会が開催されることがあったのだが、歌を歌っても声が小さく元気がない、歌の練習を長々とやる、私語が多くざわつく、など全般的に覇気がなく感じられる上に、今も昔も変わらず校長先生の長い一般的な話があり、本当に時間が長く感じられる集会が多かった。きっと卒業式もダラダラ時間だけ長いような進行だと思われた。

3月に入ってから仕事が忙しく平日も遅く休日出勤をしているくらいなので、卒業式は欠席して休暇を取らずに仕事に行こうかと思ったが、流石に初めての小学校卒業式なので一応出席して、長男の卒業証書授与を見届けたら頃合いを見て途中で帰ろうと思っていた。

朝、卒業式の開始時間より早めに妻と学校に行った。妻はカメラ係、私がビデオ係というのが、学校行事の際の役割分担である。体育館の配置は、前方が卒業生、後方が在校生で、保護者用には会場横と会場後方にパイプ椅子が置いてある。混雑が懸念されたが、運動会や学習発表会と異なり6年生の保護者だけなので、皆さん座れたようだ。さて、司会役の先生が出てきて卒業式が始まった。さて、これからが長くなるぞと思っていると、開始早々卒業証書の授与が始まり6年1組の5名の生徒がステージに向かうと担任の先生が名前を次々と呼び始め、卒業生が大きな声で返事をし、校長先生が卒業証書を授与する。証書を受け取った後、ステージを降りPTAからの証書入れを受け取る。いつにないキビキビ感を感じながら、今日はいつもと違う?と思っていた。3クラスで109名の卒業生が居たので一クラス約36名の計算となるが1クラス10分足らずで卒業証証書授与が完了し、3クラスの授与が終了した。長男も卒業証書と証書入れを受け取り、その様子をビデオに収めることができた。次は司会の案内で校長先生とPTA会長の挨拶があったが、内容は簡潔なもので長くは感じなかった。

ここから司会は式の終わりまで一切登場しなかった。PTA会長の挨拶が終わると卒業生はステージ前のひな壇に並び、在校生と相対する恰好となり、卒業生と在校生のコールが始まる。コールとは「卒業生のみなさん」などの呼びかけである。まず、卒業生の5人が立ち上がり一人ずつコールを始める。話し終わると座り5人のコールが終わると次の5人が立ち上がりコールを始める。一切の指示もなくどんどんコールは進み、卒業生全員がコールする。合い間に在校生にコールが移り1年生10人程が立ち上がりコールしていく。続いて2年生から5年生とコールが続く。約25分にわたる台詞の中でただ一人として言い間違いや、テンポの遅れもなく完璧にノーミスで進んだ。コールの内容そのものはオーソドックスで特に奇をてらったものではないが、一人ずつしっかりと声が出ていて真剣さが感じられた。

コールの途中で「歌を歌います。」というと指揮の先生がすかさず合図して、在校生数人のピアノ、ドラム、鍵盤ハーモニカなどによる演奏が始まり在校生が「Tomorrow」を大きな声で歌う。演奏は入退場を含めて全て在校生の演奏によるもの。歌が終わるとまた卒業生のコールが続き、次は卒業生が「旅立ちの日に」を歌う。最期に卒業生が「さようなら」と言い、続いて在校生が「さようなら。さようなら。」と言う。胸にぐっとくるところだ。卒業生と在校生が「地球星歌」を歌い、卒業生も泣き、保護者も泣いている。歌い終わると司会の先生が「以上で卒業式を終わります。卒業生が退場します。」と言う。6年1組から担任の先生を先頭に列を作り体育館出口に向かう途中、在校生の前で約36名が横一列に並んで在校生にお辞儀をする。在校生と保護者が、ここで初めて卒業生に向かって盛大な拍手をする。2組と3組もそれに続く。3組が拍手喝采で体育館を後にして卒業式は終わった。1時間10分程だったが、あっという間に時間が過ぎた。

何だろうこの「凜」とした雰囲気と感動は。日頃の息子から聞くダラダラした小学校生活とは程遠い、まるで別の世界を見ているようだった。卒業式が始まる前は終わり次第帰る(職場に向かう)つもりだったが、あまりにも良かったので帰るのが惜しい気がして卒業生が戻った教室に行ってみた。教室では先生が涙ぐみながら生徒に挨拶をしていた。これは小学6年生の担任の先生の特権だ。教師冥利に尽きるだろうと思った。泣いている生徒も居たが、一人ずつ先生に花を渡して黒板の前に集合して並んで、保護者達が記念写真を撮った。先生や友達と写真を撮っていたが、在校生が見送りをするというので名残惜しくも教室を後にする時間となった。

私もそろそろ出ないと職場に午後一に間に合わなくなる。生徒の一部と一緒に先に廊下に出て驚いた。長男の小学校は玄関を入ると吹き抜けになっていて二階への大きな階段がある。その階段を上がった所に6年生の教室があるのだが、その教室を出た廊下から階段を通って玄関まで途切れることなく在校生が左右両側を埋め尽し、卒業生が通るのを待っているのだ。保護者も勢いその流れに乗ってしまうのだが、卒業生が通ると在校生全員が大きな拍手をして見送る。知っている在校生がいるとハイタッチや握手をしたり話しながら玄関までの通路を歩いていく。泣いている低学年の女の子もいる。卒業生はアイドル並みの歓迎でコンサート終了後のような雰囲気だ。私はそそくさと玄関に出て職場に向かった。

長男が通う小学校。普通の公立小学校で特に教育熱心という風でもないし、生徒が優秀という風評もない。長男も家では友達や先生の愚痴が多く、中学校に早く馴染み勉強を軌道に乗せることばかりを考えて小学校の思い出など考えもしなかった。しかし、長男の卒業式に出席して、6年間この小学校で先生や友達とのかけがえのない経験を積み重ね育んできたのだと思った。現在、仕事が多忙と言ったが(結果は同じなのに)プロセスに拘り屁理屈を重ねた資料作成に追われている我を思い返すと、長男の卒業式で本当に大事なことは何かを考えさせられた。随分と練習をしたようだが、小学生が本当の力を発揮すると大きなことをやり遂げることができる。自分の子供の小学校の卒業式。ただ演出が素晴らしかったということかもしれないが、最高の嘘偽りのないエンターテイメントだと思った。



旅立ちの日に(二部)

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