ベストチョイスシンドローム

あらゆることに対して最適化を目指す最良選択症候群

NHK「戦時徴用船~知られざる民間商船の悲劇~」を観ました。

ちょっと前の話だが2月8日(土)にNHKで放映された「戦時徴用船~知られざる民間商船の悲劇~」を小6と小4の息子と観た。内容は第二次世界大戦中に日本の客船や貨物船が軍事物資等の輸送船として軍部に徴用され、数多くの船が敵の攻撃により沈没し多くの民間船員が亡くなったことを追ったドキュメンタリーである。また、これらの戦時徴用船を大阪商船三井船舶の社員で画家の大久保一郎氏が生き延びた船員の証言を基に数多くの絵に描き残している。大阪商船三井船舶に残された一つ一つの絵を読み解きながら、戦時徴用船の悲劇と民間人の船員の犠牲を浮き彫りにする展開の番組になっている。

驚くのは戦前の日本の海運会社はタイタニックまでとは云わなくても「ぶらじる丸」などの多くの豪華客船を建造していたことだ。しかし、太平洋戦争が始まるとそれらの客船は軍部に強制的に徴用され、貨物船に改造されてしまった。太平洋においてアメリカ海軍の支配力が高まるにつれ日本の貨物船はアメリカの戦艦や潜水艦に攻撃され多くの貨物船が沈没した。大阪商船三井船舶も保有する船舶の多くを失った。

当時の大阪商船三井船舶の岡田社長は、戦時徴用船の悲劇を残そうとして社員の画家大久保一郎に生存者の話を聞き絵を描くことを依頼する。大久保氏は次第に絵を描くことに没頭するようになる。テレビで幾つかの絵が映ったが、どれも沈没の過程の一瞬を切り取ったような緊迫感溢れる絵でテレビでも迫力が感じられる。船の沈没の瞬間。海に放り出される船員。救命ボートの日本人が海に落ちた米兵に助けを差し伸べる瞬間。敵の攻撃を受けているが貨物船の船員は民間人なのである。そこには船乗りとしての誇りが感じられる。

日本の海運会社が保有する船が無くなってくると、軍部は日本が世界に恥じる「戦時標準船」の建造を始める。この「戦標船」は、船舶建造の材料となる鉄の不足からできるだけ船底の鉄板を薄くし、浸水を留める船内の隔壁を排除した造船技術と人命を無視した役人的発想の貨物船である。出航してもたちどころに敵の攻撃を受け呆気なく沈没した。

太平洋戦争の海戦は戦艦、空母、潜水艦などの視点で語られることが多い。戦時の貨物船と言えば、不謹慎な言い方だがともすると潜水艦のカモのように語られることが多い。しかし、視点を変え戦時徴用船に乗船する民間人からみると、物資輸送の重要性とともに戦争の悲劇や愚かさが伝わってくる。 このNHKのドキュメンタリー番組はレコーダーに録画していたのだが、優れた番組だと思い見終わってからブルーレイディスクに保存した。英語版を制作すれば海外のテレビ番組のドキュメンタリー部門の賞を受賞できるのではないかと思われる秀逸な番組であった。



戦時標準船入門―戦時中に急造された勝利のための量産船 (光人社NF文庫)

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