ベストチョイスシンドローム

あらゆることに対して最適化を目指す最良選択症候群

百田尚樹「永遠のゼロ」を読みました。

百田尚樹原作の「永遠の0」を読んだ。これが百田尚樹のデビュー作のようだが、百田氏の作品は初めて読んだ。我が家の小六と小四の長男と次男が艦船プラモデル製作が高じて、戦艦、空母、巡洋艦駆逐艦を暗記するうちに、太平洋戦争関連の本を読み漁り、真珠湾攻撃から沖縄戦までの各海戦を論じるようになった。自ずと空母に関連する戦闘機に関心を持つようになり、零戦やアメリカのドーントレス、ドイツのメッサーシュミット、イギリスのスピットファイアなどを覚えるようになった。撃墜王坂井三郎、西澤廣義という名前も覚えたところに、 宮崎駿の映画「風立ちぬ」が封切られ、零戦が注目されるようになった。

妻が「永遠の0」が面白そうということで文庫本を買い、長男と次男が読んだ。映画「風立ちぬ」を見に行った時(映画「風立ちぬ」を観ました。 - つまらない日記)、「永遠の0」の予告編が流れた。CGがリアルなほか、俳優陣も山本學橋爪功、故夏八木勲などのベテラン俳優が出演し期待できる。12月に封切られたら観にいこうと思っている。それで、私も原作を読んでみることにした。

初めあまり読む気にならなかったのは、太平洋戦争の海戦の史実はなんとなく分かっているので、今更真珠湾攻撃から説明されても、読むのが面倒という気持ちが有ったからだ。長男と次男が「太平洋戦争の海戦が真珠湾攻撃から出てくるよ。」と言われても「それなら今までも沢山本を読んだじゃないか。」と言っていた。

この小説が優れているのは、その導入部だ。会ったことがない零戦パイロットだった祖父の人物像を、太平洋戦争で一緒だった老人を探して、孫がインタビューする形で物語は進む。その中で語られる海戦は、その老人の視点で戦場の内側から見たものでリアリティがある。歴史本にあるような日本軍と米軍の艦船数と損失数、作戦の説明と検証も理解できるようになっているのだが、各海戦でパイロットがどのように戦い、死んでいったかが記されている。

その中で生還することに信念を持ちながら卓越した優秀なパイロットである謙虚な祖父の人物像が徐々に浮かび上がってくる。老人達は、初めは祖父に違和感や反感を持ちながらも、命を懸けた戦争の中で祖父を尊敬するようになり、彼に対する感謝の気持ちから孫に全てを語る。祖父は「周囲の人達を幸せにするヒーロー」なのだ。そして最後に驚きの展開が待っている。

このストーリー展開に、読む方も引き込まれていく。厚い本だが一気に読み終えてしまった。百田氏の構成力が良いのだと思う。百田氏はテレビ番組のプロデューサーの経験もあるそうなので、このような構成力があるのだろう。太平洋海戦については史実に沿っているので、この祖父が実在の人物と錯覚してしまうところは注意である。あくまでもフィクションとして読まなければならない。

印象に残ったのは、太平洋戦争が軍部エリートの官僚主義による責任逃れに終始しているという孫の指摘である。かといって失敗しても、身内を庇う体質から処分はされない。成功か失敗かは、人命の損失は考慮されず、最後は作戦の成功失敗よりも、軍費で製造した戦艦や戦闘機を損失しないかで判断されている。私がこの小説を読んで思い至ったのは、日本にとって第二次世界大戦は、二二六事件以降の死や暴力による懲罰が常態化した恐怖政治の中で、軍部の行き過ぎた官僚主義による手柄作りと責任逃れに終始した人命軽視の巨大国家事業だということである。現在の原発問題の構図が連想される。

この本を人に説明すると「老人が太平洋戦争を語る本」と凡庸な説明になる。あまり読む気にはならないだろう。ところが、登場人物を通じて戦争の史実と実態が浮き彫りになるストーリーで、これは読んでみないと分からないかもしれない。

ところで妻が百田尚樹(ひゃくたなおき)のことを話したところ、ある人が百田尚樹(ももたなおき)と言い張ったそうである。間違いは誰にでもあるが、何故言い張ることが出来るのか理解不能である。


1/72三菱 A6M5c 零式艦上戦闘機 52型丙

1/72三菱 A6M5c 零式艦上戦闘機 52型丙