ベストチョイスシンドローム

あらゆることに対して最適化を目指す最良選択症候群

我が家に空き巣が入った昔話と警官に見つかった隠し事

私が小学1年生の時だったか。その日は、お祭りか何かで珍しく両親と姉の4人で出かけて、夜8時か9時くらいに帰ってきた。バスを降りてから早足の父が先に家に向かい、母と姉と私がその後方を歩いていた。「お父さんは、自分だけさっさと先に行くんだから。」みたいなことを母が言っていたと思う。

家に近づいた時、家の脇の道路からベージュのコートを着た20代くらいの髪を七三に分けた男性が小走りで出て来た。顔が一瞬見えたが、あちらも顔を隠すように三人のすぐ横を抜けて走って行った。当時、借家のアパートの二階に住んで居たのだが、裏手にそのアパートの大家の家があった。男性が出て来た道路は、その道路脇の住人しか通らないような道路であった。夜遅かったのでやや不審に思ったが母は「大家さんの息子さんの友達でも来ていたのかね。それにしても走って何処に行くんだろう。」みたいなことを言っていた。

走って行く先を見守っていると少し先の公園の所を右に曲がって、そのまま走り続けて行った。ちょうどその角が畑になっていて、ずっと姿が見えていたが、やがて住宅の陰に入り見えなくなった。その時の様子は、今でもYouTubeの動画再生のようにハッキリと記憶している。すると先を歩いていた父が二階から階段を降りてきて、何か言っていた。ただならぬ雰囲気だったが何のことだかよく判らなかったが、どうやらドアを開けた時にガチャンと音がしたという。

父の後について取りあえず家に入ってみると、そこで見たのは、割れた窓ガラスと片っ端から開けられたタンスの引き出しだった。窓は鍵の部分だけ割られていたが、開け放たれていて、寒風が吹き込み寒かった。父が警察を呼び、警官が2人来た。普段見ることがない警官が狭いアパートで間近に2人居て緊張感があった。タンスの指紋を採取してから、家族の指紋も採取するとのことで、父、母、姉と指紋を採った。次は私の番だと緊張していると「僕は、小さいからいいか。」と言って、指紋を採られなかった。思ったより気さくな雰囲気で安心した。後に己の罪が追究されることも知らずに…。

窓の裏側に件の大家の物置があって、犯人はその屋根に登って窓ガラスを割り、鍵を開け、窓を開けて侵入したようだ。目撃した小走りの男性は間違いなく犯人だろう。私も警官に犯人は顔を隠すようにして走り去ったと供述した。下の一階にも人が住んでいたが全く気づかなかったと言っていた。捜査が終わり母が警官に茶を出すと、夜間に外出するときは、部屋の灯りを点けておくとよいと言われた。夜に部屋が暗いということは、空き巣にこの家は留守ですよと知らせているようなものだと知り、今でも夜になって出掛ける時は、電気を点けて外出している。警官も帰り、捜査が終わった。

両親は窓ガラスの修理までは、寒い部屋で寝泊まりすることになった。幸い盗まれた物は無いようだった。恐らく侵入されてからすぐ父がドアを開けたのだろう。開けられたタンスも、ほとんどが衣類が入ったタンスだった。ただ窓ガラスの修理代は、少なくはない被害であった。その後、ひと月ほどして、空き巣の犯人が捕まったと母が言っていた。今一つ情報源がはっきりしなかったが、何でも空き巣を繰り返しており、我が家に空き巣が入った当日も他に犯行があったそうだ。何となく一安心した。

空き巣に入られた日の数日後、家に居るときに母に「ちょっと来なさい。」と言われて、父が座っている食卓の前に座った。唐突に「隠していることがあるでしょう。警察には見つかっている。」と言われた。重々しい雰囲気で問い詰められ緊張感が高まった。しかし、正直、小学1年の身で最近自分がしたことで、警察に捕まるようなことは思い出せなかった。「何だろう。」と言うと、「とぼけるんじゃない。」と叱責され、「あれよ。」と母が部屋の一角を指差した。それでも何のことか分からなかった。「トロフィー。」と言われた。それでも最初何のことか分からなかった。母が言った。「まだ、とぼけるの。トロフィーを割ったでしょ。」

居間のサイドボードの上に、父が職場のゴルフコンペやボウリング大会で貰ってきたトロフィーがあった。一応「優勝」とか「3位」とかプレートが付いていたが、あくまでも職場内の大会でトロフィーも大きなものではなかった。数ヶ月前に母親の不在時に友達が遊びに来て、走り回ったり、何かを投げたりしていた。友達が何かの拍子にサイドボードの上にあったトロフィーを落としてしまい、割れてしまった。これは「マズい。怒られる。」と思った。父は昔ながら不機嫌親父で、幼い頃は私は普段父と会話することはあまり無いくらいであった。幸いトロフィーは粉々に割れたわけではなく、根元の方でポキンと折れた状態だった。それで元の位置に置き、折れた部分を上に置くと安定して立った。根元の方が見えないように他のトロフィーの陰になるよう奥に置いた。

母に言うべきか迷ったが、気づかれなかったのでそのまま言わずにいた。数日間は、気づかれないかビクビクしていたが、元々誰も気に留めないトロフィーのこと。気づかれることもなく、そのうち忘れてしまっていた。ところが、空き巣が入り警官が部屋の中を調べている時に壊れたトロフィーを見つけたのである。流石にプロである。小学1年坊主の浅はかな悪知恵は、あっさりと見抜かれた。捜査の時は、私はその事を知らなかったのだが、父母には確認されていたようである。

私は隠していたことを思い出し、「ごめんなさい。」と謝った。母は「警察に呼ばれるよ。」と脅した。私はこれからどうなるか不安になった。それから母は「壊れたトロフィーを、よく、気づかれないように置いたもんだね。」と笑って言った。父も何も言わなかった。それから警官が見つけた顛末を聞いた。それで話は終わった。私は、心底安心したが、隠し事はいけないと痛感した出来事であった。

これが今から38年前の出来事である。私は、比較的昔のことを良く覚えている方だが(最近のことは忘れ易いが)、それにしてもこの一連の出来事は、犯人の顔、犯人の逃げ去る姿、割られた窓ガラスと部屋の様子、割れたトロフィー、父母の前で叱責された部屋などが300KBの画像データのように記憶されおり、妙に鮮明に思い出される。それほど幼い頃の事件として衝撃的だったのだろう。一度、この話を書こうと思っていたので、書いてみて良かったと思う。