ベストチョイスシンドローム

あらゆることに対して最適化を目指す最良選択症候群

釣りキチ三平 勝手にベスト10

 漫画というのは、子供の時から買うことも少なくそれ程多くは読んでいないが、それでも小学生の時は「ブラックジャック」、「サーキットの狼」、大学生以降は「美味しんぼ」、「ナニワ金融道」などは読んでいた。ただ、何れもスポット的に読むことが多く、全編通して読むことはなかったが(4コマ漫画の「コージ苑」は全て読んだが)、唯一ほぼ全編読んだ漫画が「釣りキチ三平」である。天才釣りキチ少年がユニークなアイディアで各地域の巨大魚を釣り上げる矢口高雄原作の作品である。この漫画は小学校の頃、親戚の家に揃っており、遊びに行く度に読んでいた。しかし、連載の最後の方の話は読まずじまいになっており、ずっと結末を知らずにいた。数年前から息子が読むのを兼ねて中古本を徐々に買い集めていたが、三平が父親と再会する話と一平じいさんが亡くなる話の本をようやく見つけて、ほぼ全巻を読み終えることができた。

 釣りばかりしている少年の話と揶揄する向きもあるようだが、この漫画の本題は日本に残されたが失われつつある地域の自然や風土をベースに、釣りを通じて人々の交流や友情を描きながら、現代人と自然の関わり方を問う内容だと思っている。 この漫画を読んでいた小学生の頃、近くの川でウグイを釣ったり、親戚に湖に連れて行ってもらいルアーフィッシングなどをしていた。その後暫く釣りはしていなかったが、数年前から息子と海釣りをしている。最近は護岸工事、資源減少、事故、ゴミ、漁業権、SOLAS条約などから自然の中で釣りをすることが年々難しくなってきており、お金を払って釣りをする管理釣り場、釣り公園が多くなっている。確かに安心して釣りをするために致し方ないと思うが、昔のことを思うと何か味気なく感じる。そう思うと三十年以上も前のこの作品を懐かしく感じてしまうのである。

前置きが長くなったが、釣りキチ三平の話のベストテンを考えてみた。長編・短編入り混じっているが、平成版を除いて(無理やりだが)ランキングしてみた。あくまでも個人的なランキングです。

1 イトウの原野
 釧路湿原の自然の中で豪快かつ繊細な谷地坊主と出会い、2メートル越えのイトウを狙う。谷地坊主と釣り場で昼寝していた時に夢に出てきた野ネズミ型特大ルアーを試作し竿酔さんの池で試してみる。魚紳さんが貸してくれたベイトキャスティングリール(ABU社アンバサダー)を使ってキャストするが、大事なルアーを根掛かりさせてしまう…。一方、三平の父が記憶喪失になる経緯が判明する。

2 釣りキチ同盟
 数年前に念願かなって読んだ最終章。母が亡くなり、父が失踪中の三平が明るく元気で活躍できたのも、和竿づくりの名人で世間から尊敬されている一平じいさんの存在があってのことと改めて感じさせる。一平じいさんを失い虚ろな三平が孤児になるようで切ない展開。最も信頼する待ち侘びた魚紳さんがようやく到着すると…。

3 夜泣谷の怪物
 ちょっと分厚い3巻めの作品。一平じいさんの紹介で炭焼きの銀次とサルのサンペイの処にやって来た三平。夜泣谷の大イワナに挑戦するが、いたずら好きのサンペイに手こずる。(サンペイ、ウキキ・ケポケポ)夜泣谷にダムを設置する計画があり、やって来た工事担当の優男は…。

4 O池の滝太郎
 典型的な釣りキチ三平のストーリー。謎の怪魚を追って湖にやってきた三平。初めて見るルアーを習得し、怪魚を仕留めたと思ったが…。山形県の湖に伝わるタキタロウ伝説を基にした作品。この作品発表後、その湖に釣り人が押し寄せたそうである。

5 ススキ河原エレジー
 鮎釣りに魅せられた男の人生の過ち。三平の目の前で釣り人に扮した張り込みの刑事に捕らわれそうになった男が衝動的に取った行動は…。罪を負った一人の男の半生を描いた「人間交差点(ヒューマンスクランブル)」ようなストーリー。

6 怨み竿
 少し怖い作品。一平じいさんの所に持ち込まれた一級品だが竿師の記銘がない曰く付きの未完成の和竿。三平が持ち出して釣りを始めたところ…。

7 阿仁の三四郎
 冒頭以外釣りのシーンが全くない作品。2巻にわたって三四郎と三平と人喰熊の三者だけの緊張感のあるシーンが続く。三平がマタギの考え方や行動様式を理解し兄弟のように信頼を深めていく。膠着状態を脱するために三平が出したアイディアとは…。

8 シロギスの涙
 キャスティング・コンテストで地元の少年シャークのジンと対決。狙う魚がなく砂浜に向かって投げることにリアル感を感じることができないた三平が競技委員にあるお願いをする。魚心さんがキャスト一投で錘を樽に貫通させキャスティングの危険性を厳しく諭すシーンが印象的。これは磯の王者の巻にある幼少期の辛い体験に基づくと思われる。この大会で活躍した不運の元野球選手小田切さんが、後の四万十川のアカメの巻で三平くんにアカメ釣りを指南する。

9 紅葉堤の大ニジマス
 一平じいさんが原因不明の病気で入院。不安の中、気晴らしのつもりで辿り着いた釣り場で看病疲れで寝込んでしまった三平の竿にアタリが…。この釣りで一平じいさんの病気の原因がわかる。

10 有明海のムツゴロウ と 茜屋流小鷹網
 これは絞り切れなかった。どちらも釣りとは少し違うのだが、地域の風土に根差した伝統技術の伝承とその後継者といった問題に希望を感じさせる作品。

〈次点〉
・カナダのサーモ ン・ダービー
・ハワイのブルー マーリン
 三平が世界でも大活躍。外国人でも釣りを通じてすぐお友達になります。

〈番外〉
・呪い浮子
 この作品は難しい。三平が父親と知らずに実の父親と再会する。原作者も、連載を終了すると決心した後、最終章に向けての父親や再会の設定に悩んだのではないかと想像している。釣りの名人というのはいいが、職業の設定が何がよいのかわからない。平成版になってからも父親と一緒ではないことから、天真爛漫な三平くんに暗い影を感じるような気がする。ただ、父親と一緒だとそれはそれで凡庸な感じがする。それが大人になり始めた三平の成長した姿かもしれない。

 実写版映画の「釣りキチ三平」は、 須賀健太主演ということで期待していた。賛否両論あるようだが、DVDで見て今ひとつの内容だと感じた。原作には無い三平の姉を登場させるのは良いとして、田舎で釣りばかりして困っている子供と、便利な都会生活を送る女性の対立という姉弟の関係に終始し、冒頭に述べたこの作品の本題に触れられていない表層的な内容だと感じた。それでも平成になって映画化され話題になったことは、平成版の刊行とともに良かったと思う。ということで釣りキチ三平は、昭和の心象風景として刷り込まれた結構思い入れのある作品です。


釣りキチ三平 (講談社漫画文庫)

釣りキチ三平 (講談社漫画文庫)